しかして雪にならなかった。
肌に刺すように冷たい冷気は、遥か上空の雨水を雪にしなかった。
雪になるほどに寒くなかったのだ。
もう幾日もすれば、2月になる。
1年で最も寒い月と小学校の理科の授業を思い出す。
フラスコ、デシシリンダー、アルコールランプ、懐かしい理科の教室を想起する。
リトマス試験紙が赤くなった、青くなったとざわざわと騒いだ理科実験室で私は何を考えていただろうか?
中学生になりたくない、と考えてい小学6年生の2月だった。
廊下をゆっくりと歩けば、教室に辿り着くのは遅くなるから、と無駄な足掻きをしていた。
その時は雪は積もっただろうか?
覚えていない、さして記憶に残る程の雪が降っていなかったのだろう。
昔からこの土地の刺すような寒さは変わっていない。
とっくにオッサンになって、それでもまだ足掻いている。
ゆっくりと進み、1歩前に出るのを躊躇い、進んでいる。
どんなにゆっくりと歩いても、何時かは辿り着いてしまう悲しさを背負って。
カタツムリの殻の中身は「悲しみ」という詩を思い出す。
その日は何時だったか?
やはり、雪は積もっていなかっただろう。
空からうっすらと雨水が落ちてくる。
刺すような冷気が私の肺をくぐり抜けていく。
しかして雪にはならなかった、あの時も、今も。
憧憬の情景を胸痛する疼痛は積もることもない雪のようだ、とそんなことを考えた。