朝、ゆるゆると過ごしていると、 父がにこにこしながら声をかけてきた。
「ぶっ倒れそうだから、母にジムまで送ってもらうから」
私は日本語話者なのだが、 父が何を言っているのか理解が追い付かなかった。
父は健康維持のために平日の朝は近場にあるジムに通っている。
父は出不精で運動らしい運動と言えばそのジムぐらいで、普段は部屋に籠もりきりだ。
健康のためにジムに通う、その点は分かる。
ぶっ倒れそう、なるほど、具合が悪いのかもしれない。
父も歳だ、ちょっとしたことで身体に不具合が出るのは当然だろう。
目眩なのか、足腰なのかは医者でないので判断できないが、具合が悪いのだろう。
ぶっ倒れそうだから、母にジムまで送ってもらう。
いや、待ってくれ、矛盾していないか?
ぶっ倒れそうなら行くのは病院だ、ジムではない。
私は父に「ぶっ倒れそうなら病院でしょ?」と言ったら「 今は大丈夫」と答える。
「大丈夫なら、自分の運転でジムに行けば良いのでは?」と言えば「いや、具合が悪い」と答える。
どういうことなのか、シンプルに謎だ。
傍から聞いていた母は「コンビニで倒れそうになったらしい」という情報を補足した。
倒れそうである方が真であるようなので「じゃあ病院に行きなよ」 と言うが、にやにやして「大丈夫だ」と答える。
困惑を極めている私に母は「心配してもらいたいんだよ」とやけくそ気味に言う。
心配してもらいたいから私に倒れそうであることを伝えるが、心配して病院に行けと言うとそれを拒否する。
意味が分からない、何がしたいのかチンプンカンプンだ。
健康維持が目的ではなかったのか? とそもジムに行く理由もよく分からなくなる。
へへへと笑って「大丈夫だから」と笑う父がとても嫌に感じる。
いや、人に「ぶっ倒れそう」と伝えて「お大事に」とでも言えば良かったのか?
私が素っ気ない態度を取っても、不機嫌になりそうな気がして、 一体どういうつもりで私に言ったのか、本当に分からない。
私より母の方が父の状態は分かっているだろうから、その母がそれほど心配してなさそうなので深くは追及せずに終わらせた。
部屋に戻る時に高笑いが聞こえて、父本人は満足したようだ。
一体彼奴は私に何を伝えたかったのだろうか…?
いつかこの理不尽な発言を解する日は来るのだろうか、首を捻る。