手を伸ばせば届きそうな星であった。
手を伸ばせば届く、と考えるのは浅はかだろうか。
手を伸ばしても届かない現実の前に息を大きく吸う。
手を伸ばさなくても届かないと現実を知った気になっている。
手を伸ばせば届くかもしれない、と上っ面だけの綺麗事が木霊する。
諦めるのだけ上手くなっただけなのかもしれない。
絶対に星が手に届くことはない。
実際には何万光年先にあって、有毒なガスや熱で近付くことさえできない。
星が手に届くのは、頭に描く星のみだ。
知れば知るほどに星は届かない。
手を伸ばせば届く星などありはしない。
利口になった口で馬鹿は空を見上げる。
ロマンチストなら、もっと良い言葉を言えただろうか?
無限に広がる宇宙を私はただ受け入れる。
あの星が私の手に届かないから、私の頭の中の星に触れる。
しかし、「手を伸ばせば星に届く」と言える人間もいるだろう、必ず。
虚言ではなく、その人間の実感として、現実に、あの星に手が届いた人間もいるだろう。
頭の中の星でもなく、空虚な精神論でもなく、ただ事実として手に届く人間もいる。
そういう人間に実際に会ったことはない。
しかし、そういう人間がいるだろう、と確信している。
世界は私の想像よりは狭く、しかし同時に広い。
幽霊がいない、と論じるのは、今までそういう現象に出くわしたことがないからだ。
自分が経験した事がないからないと否定するのは簡単だ。
しかし、経験したことがなくても、「幽霊はいない」と断じるのは私にはできない。
手を伸ばせば星に届く、そういう人間もいるだろう。
ふと、何となしに手を空に伸ばした。
冷たい空気が指先をチリチリとかすめていくばかりで、星には届かない。
私は経験できるだろうか、星に手を届く経験が。
確かな現実として、空虚な精神論ではなく、実感としてあの星に触れられるだろうか。
私は未だに利口の振りだけする馬鹿だ。
諦めて、尚、星は輝く。